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中国の人工知能に係る特許審査について(1)

目次

要旨:AIの発展は、学術分野、科学技術分野、さらには人間社会の発展に大きな影響を与えていることが分かる。人工知能(AI)技術の発展に伴い、関連技術の特許も増えつつある。本記事は、中国専利法の関連規定、審査指南の改訂、および関連の審査実務に合わせて、中国現在のAI分野に係る特許発明に対する審査政策、審査実務について検討する。

最近、人工知能研究所OpenAIにより開発されたチャットアプリ「ChatGPT」は、詩や物語、論文を作成したり、プログラミングコードを書いたりするなど、幅広い分野の質問に詳細な回答を生成できることから注目を集めている。世界中の多くの有名な大学は、学生がAIを使って盗用や不正を試みることを防ぐために、ChatGPTの利用を制限することを正式に明らかにした。権威ある学術誌ネイチャーでさえ、「如何なる大規模言語モデルツールであっても論文の著者になることはできない」と声明を出している。著者は、論文の作成に関連ツールを使用した場合、「方法」や「謝辞」など適切なセクションで明確に説明しなければならない。AIの発展は、学術分野、科学技術分野、さらには人間社会の発展に大きな影響を与えていることが分かる。
人工知能(AI)技術の発展に伴い、関連技術の特許も増えつつある。本記事は、中国専利法の関連規定、審査指南の改訂、および関連の審査実務に合わせて、中国現在のAI分野に係る特許発明に対する審査政策、審査実務について検討する。

AI特許と、AI生成物の特許について

2020年2月1日に施行された中国国家知識産権局の改訂版「専利審査指南」では、人工知能、「インターネット+」、ビッグデータおよびブロックチェーン等に関する発明の特許出願に対し、特別な審査規定が設けられている。「請求項に、アルゴリズムの特徴または商業規則および方法の特徴のほかに、技術的特徴も含まれている場合、該請求項は、全体的に言えば知的活動の規則および方法ではない。よって、専利法第25条1項2号に基づき、特許権の取得可能性を排除すべきではないことを明らかにしている。中国がAI技術に関する特許審査の規則を明確化した後、AI発明の特許の取得や、その新規性、進歩性および実用性に関する審査基準が現在多く議論されている課題である。
上記の審査指南の規定から、AI技術の特許性は明らかになった。それに対し、AI技術による生成物の特許性について、今後も多く議論されるのであろう。例えば、AI生成物が特許性を有する場合、その特許出願の権利、特許権等の権利がデータの所有者にあるのか、それともアルゴリズムの開発者にあるのか、あるいはアルゴリズムの使用者にあるのかなど、権利の帰属が課題である。権利付与される場合、権利者が誰なのか、自然に取得されるのか、それとも合意によって取得されるのかなどの課題がある。これらは、今後議論する必要があり、実務において直面する課題である。
今後、AI生成物が中国を含む各国の特許制度に大きな影響を与えることを予測できる。AIの発展は現在まだ開発の初期段階にあり、複雑な製品や方法などの技術的解決手段を自主的に改良するほどではない。しかし、AI生成物は、製品の形状、パターン、および色を自主的にデザインすることをすでに実現でき、製品の構造や、方法のロジックの簡単な改善さえも達成できている。従って、AI生成物の特許性や審査方法についても検討する必要がある。

AI特許の保護の客体について

AI技術自体に関わる特許のほとんどがアルゴリズムに関するものであるため、特許保護の客体の特定は、中国専利法第2条第2項※1と第25条第1項2号※2の規定によって定められている。上記の改正された「専利審査指南」の規定によると、関連技術が特許保護の客体となり得るか否かを判断する際には、段階的に判断するべきとある。まず、該出願の請求項が専利法第25条に規定された「特許権を付与すべきでない場合」に該当するか否かを判断する。該当しない場合、該請求項が専利法第2条に規定された技術的解決手段に該当するか否かを判断する。

※1 第2条:発明とは、製品、方法、またはその改良について出された新しい技術をいう
※2 第25条:「(2)知的活動の法則及び方法」に対しては、特許権を付与しない

保護の客体の判定順

請求項が「知的活動の規則及び方法」に該当するか否かを判断する第1ステップについて、AIに係る請求項が抽象的アルゴリズムまたは単純な商業規則および方法のみに関わり、かついかなる技術的特徴も含んでいない場合、該請求項は特許権が付与されるべきではない。一方、該請求項が、技術的特徴を含んでいる場合、全体から見て「知的活動の規則及び方法」に該当しないため、次の判定ステップへ進む。専利法の本来の意味から判断する第2ステップにおいて、専利法第2条の規定によると、特許保護の客体は新たな技術的解決手段でなければならない。技術的解決手段とは一般的に、自然法則を使用して解決しようとする技術的課題を解決し、特定の技術的効果を獲得する手段である。従って、AIが自然法則を利用して関連の技術的課題を解決し、自然法則に適合する技術的効果を得る場合、該AIに係る請求項は技術的解決手段を構成したため、特許保護の客体に該当する。なお、技術的解決手段は技術的特徴から構成されるため、AIに係る請求項が技術的解決手段を構成するか否かの判断において、AIに係る請求項に記載するあらゆる特徴を全体的に考慮する必要がある。例えば、該AI技術が全体的に解決しようとする技術的課題を解決するためであるか否か、該AIの論理プロセスが自然法則を使用して、その解決しようとする技術的課題を解決するか否かなどを考慮しなければならない。
一方、現在の特許関連法規から、AI生成物が特許保護の客体となる可能性が非常に高い。特に、現在のAIがさまざまな芸術作品や立体構造物を設計できることから、これらのAI生成物は、専利法第2条における意匠または実用新案に対する定義を完全に適合し、専利法第25条に規定の不特許事由に該当しない。この観点から、AI生成物は、特許保護の客体となり得る。現段階では、AI生成物の特許出願の主な課題は、所有権と権利の行使にある。米国のAIシステム「DABUS」により生成された2つの技術がオーストラリアで権利付与され、人工知能(AI)は、発明者として世界で初めて認められた。今後、このような議論はますます増加していくだろう。

おわりに

本記事は、主にAIに係る特許の種類および保護の客体の審査規定について述べた。現段階ではAI生成物が特許保護の客体となるのが難しいが、AI技術のさらなる発展、および特許法律制度の更新と改革に伴い、将来的に、AI生成物が特許保護されるのであろう。次の記事では、AI技術特許の実体審査、特にその進歩性の審査、中国における実務およびその発展動向について説明する。

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