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メタバース関連技術に関する米国意匠実務の現状

目次

要旨:メタバース世界において、個人や企業は仮想製品を売買することができる。メタバースにおける仮想製品が現実世界の同等の製品とまるで同じようであるため、メタバースにおいて取引される仮想製品の意匠保護は、現実世界の製品の保護と同じくらい重要である。ただし、米国の意匠実務では、無形の仮想製品自体は、いくつかの要件や条件により、基本的に意匠の保護の対象とならない。本記事では、メタバース関連技術に関する米国の意匠実務の現状(制限や課題など)と、メタバースで使用できそうな適格な意匠の例について説明する。

メタバースと米国意匠の保護

メタバースで仮想製品が個人や企業によって取引される場合、仮想製品の外観のデザインは、現実世界の同等品と同様に、仮想製品を購入するよう消費者の興味を引く役割もある。従って、メタバースにおける仮想製品の意匠保護は、現実の物理的製品の意匠保護と同じくらい重要になる。本記事では、メタバースの仮想製品に関する米国の意匠実務の現状について説明する。

米国意匠実務における製造物品要件

米国特許法171条

米国特許法171条は、意匠の対象となる主題について、「製造物品のための新規、独創的かつ装飾的なを創作した者は、それについての特許を取得することができる」と定義している。
ここで、第171条は、保護の対象となる意匠が「製造物品のための」意匠であることを要求している。第171条による製造物品要件を満たすために、USPTOは、デザインを製造物品に適用するか、製造物品に具現化することを要求している。つまり、単なる絵や装飾自体(すなわち、抽象的なデザイン)が意匠の保護を受けることはできない。そのため、画像そのものは意匠の保護の対象とすることはできない。

コンピューター作成デザインに関するガイドライン1996

コンピューター作成画像に関しては、1996年にUSPTOが、「特許審査手続マニュアル(MPEP:Manual of Patent Examining Procedure)のガイドラインでは、特定の条件下(MPEP1504.01(a))で、グラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI:Graphical User Interface)やアイコンなどのコンピューター作成デザインが第171条に規定される意匠の保護を受けることのできる法律上の主題である」とみなしている。MPEPに示される条件は次の通りである。

(i)図面は、コンピューター・スクリーン、モニターもしくはその他のディスプレイ・パネルまたはその一部において具体化されたコンピューター作成アイコンを示さなければならない。

(ii)名称は、保護を求めるデザインの特定の物品を指定する必要があり、例えば、「アイコン付コンピューター・スクリーン」、「コンピューター・アイコン付ディスプレイ・パネル」、「アイコン画像付コンピューター・スクリーンの一部」、「コンピューター・アイコン画像付ディスプレイ・パネルの一部」、または「コンピューター・アイコンが表示されたモニターの一部」などである。

メタバース関連技術の意匠例

上記の条件によれば、仮想製品のデザインは、具現化されたものであり、有形なスクリーンを示す名称を有し、図面に実線または破線でディスプレイスクリーンを示していれば、保護することができる。以下はUSPTOにより発行された意匠の例を示す。

米国D959,476
名称:「仮想3次元アニメーショングラフィカルユーザーインターフェイスを有するディスプレイシステムまたはその一部」

米国D947,874
名称:「グラフィカルユーザーインターフェイスを有する仮想現実ゴーグル」

機能要件

コンピューター作成デザインに関するガイドライン1996を制定する際、USPTOはEx parte Strijland1(Bd.Pat.App.&Int.1992)を考慮した。

Strijlandでは、委員会は「しかし、コンピューターまたはその他の表示装置の画面に表示される画像を単に説明するだけでは、画像を製造物品のデザインに変換するのに十分ではないと考えている。アイコンがプログラムされたコンピューターの動作に不可欠な部分であることを証明する宣言証拠が提供された」と指摘した。

しかし、ガイドライン1996では、USPTOはそのような機能的要件(すなわち、コンピューター作成画像がコンピューターの動作に必要不可欠なインタラクティブな構成要素でなければならない)を適格な主題として採用しなかった。

また、控訴第2020-001664号において、PTABは、機能的要件として、コンピューターの動作に必要不可欠なインタラクティブな構成要素を組み込むことを拒否した。従って、名称が「グラフィック付コンピューター表示スクリーンまたはその一部」である第29/510,320号出願の意匠は、意匠保護の適切な主題とみなされる。

「製造物品」の解釈

製造物品が「有形」であるという要件は、米国特許法171条の明示的な要件ではない。しかし、連邦巡回控訴裁判所は2007年に「manufacture(製造)」を「有形な物品または商品」を指す用語として解釈した(InreNuijten2を参照)。2015年、裁判所は再び「物品」とは有形物のみを意味し、無形物品には適用されないと解釈し、「物品」には電子的に送信される3次元デジタルモデルが含まれないと判決した(Clear Correct Operating, LLC v. International Trade Commission3を参照)。
第171条の「製造物品」の解釈を変更し、この要件(すなわち、コンピューター作成アイコンは実体的なスクリーン上に表示されなければならない)を削除することについて議論されている(例えば、66Am.U.L.Rev.1113(2017)4、USPTO,“Summary of public views on the article of manufacture requirement of 35 U.S.C.§ 171”(2022)5などを参照)。しかし、この点に関して法令やUSPTOガイドラインにはいまだに変更はない。

新興技術の意匠保護

プロジェクション、ホログラフィック画像、仮想/拡張現実などの特定の新技術は、可視化するために物理的なディスプレイスクリーンやその他の有形物を必要としない。そのため、仮想製品のデザインに力を入れ、米国で意匠を求める出願人にとって、その製品の意匠保護の取得が課題である。

世界的なトレンド

一部の国・地域では、先端デジタル技術の保護を強化するために意匠法を修正した。例えば、日本では、改正された意匠法では、法定の対象は、投影された画像などのグラフィック画像自体(すなわち、物体から分離された画像)を含めると定義した。ただし、ここでのグラフィック画像は、デバイスの操作で使用されるか、デバイスがその機能を実行することによって表示されるものでなければならない。

USPTOによる製造物品要件の審査

2020年12月、USPTOは、先端技術や新興技術を含むデジタルデザインを保護するために製造物品要件の解釈を改訂すべきかどうかについて意見募集が行われた。2022年4月、USPTOは製造物品要件に関する意見募集を公表した。また、USPTOは世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)および工業デザインフォーラム(ID5:Industrial Design Forum)と連携し、新しい技術を受け入れるためのグローバルな実務の改変に取り組んでいる6

このような状況で、USPTOの手続きには正式な規制の変更や明確化はないが、デジタル3次元デザインに関してUSPTOによって発行されたデザイン特許がいくつかある(下記を参照)。なお、USPTOの審査官には、意匠出願を審査し、特許性を判断する際に大幅な裁量権が与えられている。また、USPTOとの協議が製造物品要件に関連する法律または規制の変更につながるかどうかはまだ不明である。

意匠の請求項および名称に記載されている物品

米国の意匠では、特定物品を特定できるクレームおよび名称が求められる。意匠クレームおよび名称で特定される物品は、保護を請求する発明の範囲を決定する上で重要な要素であるため、先行技術に対する特許可能性および侵害の判断においても重要である。
P.S. Products, Inc., v. Activision Blizzard, Inc.,7裁判では、原告PS Productsのスタンガンの装飾デザインの意匠は、そのスタンガンを具体化したとされる画像を含む被告のビデオゲームによって侵害されていないとの判決が下された。この案件のように、特許侵害(および発明の同一性(anticipation))に関する唯一のテストである通常の観察者テスト(ordinary observer test)を実施した結果、通常の人は、デジタルアイテムを購入した場合、特許意匠が具現化された物理的な製品を購入したと思わないことから、物理的な製品(例えばスタンガン)の意匠は、メタバース(またはビデオゲーム、仮想現実)におけるデジタルアイテムをカバーできないであろう。
最近のIn re SurgiSil8(Fed.Cir.2021)裁判では、連邦巡回控訴裁判所は、かつてCurver Luxembourg v. Home Expressions Inc.,9(Fed.Cir.2019)の裁判にて、「係争クレームは、クレームにより特定された製造物品に限定される」と判決を下したことから、同様に「意匠クレームは、クレームで特定された製造物品に限定される」と判決を下した。
従って、意匠について、独創的な名称を真剣に決定することがますます重要になっている。

結論

USPTOの現行のガイドラインでは、デジタルデザインが意匠保護の対象となるためには、コンピューター作成画像が表示される有形物体が必要とされている。先端技術や新興技術における仮想製品などのデジタルデザインの意匠保護を取得するには、第171条に基づく「製造物品」の解釈を変更し、有形の要件を削除する必要がある。USPTOは、製造物品要件に関連する規制変更に向けて前進すべきである。
最近の判例によると、保護を請求するデザインはクレームおよび名称により定義された製品に限定されるため、意匠クレームは、新技術産業におけるデジタルアイテムを表す適切な物品を特定する必要がある。出願人は、デジタルアイテムの適切な意匠保護を取得するために、有形か無形かにかかわらず、物品を適切に指定することを許されるべきである。

参考文献

1:Ex parte Strijland, Appeal No. 92-0623 (USPQ 2d 1259 (BPAI Apr. 2, 1992)
2:In re Nuijten, 500 F.3d 1346 (Fed. Cir. 2007)
3:ClearCorrect Operating, LLC v. International Trade Commission, 810 F.3d 1283 (Fed. Cir. 2015)
4:American University Law Review (66 Am. U. L. Rev. 1113 (2017)) “Redefining Reality: Why Design Patent Protection Should Expand to the Virtual World Author: John R. Boulé”
5:USPTO, “Summary of public views on the article of manufacture requirement of 35 U.S.C. § 171” (2022) United States Patent and Trademark Office Working Paper, online:https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/USPTO-Articles-of-Manufacture-April2022.pdf
6:“Digital and new technology designs”:https://www.uspto.gov/ip-policy/industrial-design-policy/digital-and-new-technology-designs
7:P.S. PRODUCTS, INC. v. ACTIVISION BLIZZARD, INC., Case No. 4:13-cv-00342-KGB United States District Court for the Eastern District of Arkansas
8:In re SurgiSil (14 F. 4th 1380 (Fed. Cir. Oct. 4, 2021)
9:Curver Luxembourg v. Home Expressions Inc., (938 F.3d 1334 (Fed. Cir. Sept 12, 2019)

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