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特許出願の非公開制度の導入と想定される実務への影響

目次

概要:2023年2月、内閣官房・内閣府より「特許出願の非公開に関する基本指針(案)」が公開されました。

背景と経緯

国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等により、安全保障の裾野が経済分野に急速に拡大する中、国家・国民の安全を経済面から確保するための取り組みを強化・推進することを目的として、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」が、2022年5月11日に成立しました。また、経済安全保障推進法の中で、特許出願の非公開制度の創設が決定しました。

経済安全保障推進法案における特許出願の非公開に関する制度について

本制度は、安全保障上拡散すべきでない発明の特許出願が行われた場合に、出願公開等の特許手続を留保し、情報流出防止の措置を講ずるとともに、これまで安全保障上の理由で特許出願を自重していた発明について先願の地位を確保できるようにするものです。

保全審査と保全指定

非公開の対象となる発明(保全対象発明)について

公にすることにより外部からの行為によって国家および国民の安全を損なう事態を生ずる恐れ(機微性)が大きい発明が含まれ得る技術の分野として、国際特許分類またはこれに準じて細分化したものに従い、政令で定める特定技術分野に属する発明は、内閣府による保全審査の対象となります。

※機微性が大きい発明
例として以下のものが挙げられています。
①我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術
(ex 超音速兵器のような将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられる技術、宇宙、サイバー等比較的新しい分野の技術)
②国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術の発明
(ex 大量破壊兵器への転用が可能な核技術)

出典:特許出願の非公開に関する基本指針(案)の概要
(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai5/siryou4.pdf)

特定分野を定めるにあたっては今後の政令に委ねられていますが、シングルユース技術(軍事用にのみ利用される技術)に限らず、一定の付加的な要件を満たすデュアルユース技術(民生用・軍事用の両方に利用可能な技術)も含まれることが想定されています。特に、特定技術分野をどの程度細分化した上で定めるかという点については、広く定めるほど、特許出願人にとって制約が多くなり、詳細に細分化した上で示せば安全保障上の問題が生じ得るため、そのバランスに留意しながら個々の技術分野ごとに検討する必要があるとしています。

保全審査

保全審査では、機微性の程度と保全指定することによる産業の発達に及ぼす影響その他の事情を総合的に考慮し、情報を保全することが適当と認められるかどうかについて、個別の具体的な審査が行われます。保全審査の結果、その発明に係る情報の保全が適当と認められると、保全対象発明として指定(保全指定)され、出願人および特許庁長官に通知されます。

保全指定の期間は1年を超えない範囲で定められ、1年単位で期間の延長が可能です。保全指定を継続する必要がないと内閣総理大臣が認めたときは、保全指定は解除されます。

保全審査の対象となった場合、発明の流出を防止する観点から、我が国への第一国出願義務が課され、外国出願に制限がかかります。一方で、パリ条約による優先権(12カ月)が失われないよう、外国出願の禁止は、我が国での特許出願後最大10カ月で解除されるべきと提言されています。それに伴い、保全審査もこの10カ月の間に終えるとされています。

保全指定

保全指定により、以下の法的効果が生じます。
(1)特許出願の放棄、取下げの禁止
(2)実施の制限
(3)保全対象発明の開示の禁止
(4)適正管理措置の実施

実務への影響

外国出願に関して

①特許出願の日から3カ月以内に保全審査に付されなかった場合、②特許出願の日から10カ月以内に保全指定がされなかった場合、③保全指定が解除されるか保全指定の期間が満了した場合の三つを除き外国における特許出願(PCT国際出願を含む)が禁止されます。その一方で、保全指定がされた場合には、パリ条約による優先期間内(12カ月)に外国出願ができなくなるため、優先権が確保されなくなることに留意が必要です。

ペナルティ

①保全指定されたことにより課される実施の制限、または保全対象発明の開示禁止の違反については、刑事罰の対象とされているほか、特許出願が却下されることがあります。
②適正管理措置を十分に講じていなかったことにより、特許出願人以外の者が保全対象発明の実施、または保全対象発明の内容開示をしたときも、特許出願が却下されます。
③外国出願の禁止に違反した場合、日本の特許出願が却下され、外国出願の禁止に違反した者には、刑事罰が科せられます。

補償

保全指定を受けたことにより実施が制限されてしまい、損失を受けた者に対して、通常生ずべき損害を国が補償することとされています。

まとめ

2024年春ごろの制度運用開始に向けて準備が進められています。特許出願の非公開制度は、通常の出願とは異なり、手続上特別な考慮が必要と思われ、必要に応じて発明の取り扱いに関する規程を整備する等、実務においてもスムーズに対応できるように備えておくことが重要と考えられます。

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